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第5回 麺都TOKYOから世界へ放たれる ラーメンという名の光芒

「国民食」として、我々の食生活にすっかり根付いたラーメン。「昔ながらの」「懐かしの」といったキャッチが良く似合うように、ラーメンの湯気の向こうには昭和のドメスティックな原風景が広がっているかのように思える。

しかし、振り返ってみれば、ラーメンは明治開国期に中国からもたらされたものだ。
もともと「南京そば」として横浜、長崎などの中国人居留地で広がり、それを日本人職人らが「支那そば」「中華そば」としてブラッシュアップ。現在の「ラーメン」という呼称に至っているが、もともとは日本が世界に門戸を開いたファースト・グローバリゼーションに深く結びついた料理なのだ。

それから、1世紀余りが経った。日本の津々浦々に浸透したラーメンは、今また再びグローバリゼーションの最前線に身を投じている。『博多 一風堂』『せたが屋』『山頭火』など、有力ラーメン店は続々と海外に店舗を展開。その加速は止まらない。

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近年、その急先鋒に挙げられるのは「ラーメンを地球食に」という旗印を掲げる『凪』グループだ。2004年に新宿ゴールデン街で始動して以来、都内を中心に国内では6店舗を展開。海外でも香港を皮切りにジャカルタ、マニラ、台北などに精力的に出店中だ。代表の生田智志氏に、アジア戦略を聞いてみよう。

「確かに、香港、台湾、インドネシア、マレーシアと、アジア各国ではラーメンブームがアツいです。出店する僕たちも、現地のラーメン熱を肌で感じています。そこで日本のラーメンの美味しさ、楽しさを伝えていくのがミッションですね。最近は、現地店のFacebookページをチェックしていると、地元のお客様が『東京の豚王に行ってきたよ』というコメントをよく目にします。これには驚かされますね」

クールジャパンに惹かれる各国のナードが秋葉原を、中野ブロードウェイを目指すように。
アニメ、マンガ界で言う「聖地巡礼」ムーブメントが、海外ラーメンフリークの間でも盛り上がりつつあるのだ。インバウンドビジネスにおいても、ラーメンは有望なコンテンツになっていくのか。

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「店が東京でメジャーなことも大事ですが、その情報が海外に届かなければ意味がない。そこで、訪日旅行客のSNS、ブログによる伝播が大きな意味を持ちます。ネット上で日本語コンテンツの情報量は約約3%に過ぎず、他方で英語コンテンツの情報量は7割に及ぶとも言われます。この情報量の差は圧倒的です。

僕は、英語による首都圏ラーメンブログ『Ramen Adventures』をアップしてきたブライアン・マクダクストン氏の功績が大きいと思います。彼によってTOKYOラーメンの最先端が届けられたことは、高く評価すべきでしょう」

さっそく、渋谷の『ラーメン凪 豚王』へ。
アジア圏のラーメンフリークをとりこにする『豚王』ラーメンを実食してみよう。

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クリーミーなスープを口に運ぶと、まろやかでリッチなコクにヤラレてしまう。丼の中に闊達にたゆたうのは、粉から吟味した自家製細麺。辛味ダレもいいアクセントになっている。

個性全開で客とスタッフのノリをシンクロさせてきた『凪』グループだが、こと『豚王』のラーメンは食べやすさ抜群。豚骨スープの味わいをとことん突き詰め、深化させた一杯と言えるだろう。世界に打って出る「グローバルとんこつ」のポテンシャルを存分に味わった。

生田氏は、地球食としてのラーメンの可能性を、大きな期待感と展望する。

「ハンバーガーが世界で普及したのは、あの手軽さと味のバランスがあったから。ラーメンも同様のバランスを誇ります。一杯のスープと麺で、栄養と満腹感が得られるのは大きな武器になる。ラーメンのクオリティと手軽さは、将来的にハンバーガーを脅かす存在になるかもしれません」

なるほど、アジアにおけるラーメン熱は把握した。
では、他の大陸はどうか。業界を代表する集合施設にして、ラーメンシンクタンク機能も備える『新横浜ラーメン博物館』によると、ワールドラーメンブームはアジアから始まってアメリカが続き、現在最もホットなのがヨーロッパだという。

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この6月には、ドイツ・フランクフルトの『無垢(MUKU)ツヴァイテ』が、『新横浜ラーメン博物館』にオープン。店主の 山本真一氏は日本に店舗を持たず、現地で旗揚げしている。いわゆる“逆上陸”としての登場だ。

こちらは、ドイツ国内はもちろんヨーロッパ全土から客が訪れており、グルメサイト「トリップアドバイザー」では、約1700軒あるフランクフルト市内のレストランの中でもトップ10に入るほどの人気。駐在日本人向けではなく、現地で圧倒的な支持を受ける、欧州ラーメンのファンタジスタと言っていい。

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招聘に尽力した『新横浜ラーメン博物館』営業戦略担当の中野正博氏に聞こう。

「私たちは世界各国で誕生したラーメンを逆輸入するという試みを始めています。第1弾は、昨年誘致したLA発のつけ麺『IKEMEN HOLLYWOOD』。第2弾が『無垢ツヴァイテ』です。ヨーロッパを食べ歩いて取材を重ね、独自性のあるお店と認めてお声がけしたのです」

逆上陸店では3種のラーメンをラインナップするが、ドイツらしさを感じさせる「無垢ツヴァイテラーメン」を実食してみよう。

頬張って感じるのは麺のユニークなテクスチャーだ。ツルツルともシコシコとも異なる、ソリッドでキレのある歯触り。ピザ用の小麦+パスタ用デュラム粉を配合したオリジナル麺は、日本のラーメンにはない独自の食感を実現している。スープは豚骨、鶏ガラを丁寧にブレンドしており、しっかりとラーメンらしさを感じさせてくれた。

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トッピングは、ご存じドイツの郷土料理ザワークラウトをワインで煮込んだもの。酸味よりも旨みにフォーカスし、鶏脂と合わせることでスープとの親和性を高めた。洗練されたバランスの中にも、塩漬け背脂を揚げた「スペック」、7種のスパイスを調合したミックス香辛料「ジーベン」が野趣をのぞかせる。ユーロな旨味を見事にアウフヘーベンさせたラーメンだ。

「日本はラーメンに関する食材、機器、インフラも充実していますし、作り方についてある程度の既成概念がある。オリジナリティはその上に加えられるものです。一方、海外ではラーメンとは何かという既成概念に縛られませんし、調達できる食材も日本とは異なります。そこで職人が試行錯誤した結果、日本では考えられない食材や調理方法が具現化します。それが実に面白い」(中野氏)

確かに、欧米のラーメンを見ると、その自由な発想、着眼点に驚かされる。ニューヨークのラーメン店『Momofuku Noodle Bar』では卓上のトマトケチャップをラーメンに絞り、フォークで食べる客がほとんど。中野氏は、トッピングにザリガニを使うなど、クレオール料理の技法を取り入れたラーメン店『Dassara』(NY)に注目しているという。

最近は、国内でも海外ラーメンの影響が散見されるようになった。
本連載第1回で登場した『ソラノイロ』はフランスの食イベント『Paris Ramen Week』の出展経験を生かし、ヴィーガンフリー、つまりベジタリアン仕様のラーメンをメニュー化した。『新横浜ラーメン博物館』では、イスラム教徒の来店者が急増したことから、豚とアルコール不使用のムスリムフレンドリー対応メニューを用意している。

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『無垢ツヴァイテ』のように、海のエッセンス、技法、スタイルをどん欲に取り入れることで、TOKYOラーメンは着実にヴァージョンアップを遂げるだろう。中国から日本に渡り、そしてアジア、アメリカ、ヨーロッパへ――ラーメンは旅をする。国境を軽々と越える。

昭和時代、ご当地ラーメンがTOKYOというラーメン闘技場に集ったように。ニューヨーク、ロンドン、パリ、フランクフルト…“ワールドご当地”ラーメンが刃を研ぎ、TOKYOに進出する。
そんな未来が、きっとやってくる。


【TOKYOラーメン連載目次】
第4回 TOKYOラーメン、そのオープンソースの思想
第3回 「情報を食う」の、その先へ――TOKYOラーメンGeeksの今
第2回 どこから来たのか、TOKYOラーメン
第1回 原色の時代を迎えたラーメン


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